西部戦線−−−−−−。
その地獄の最前線で
僕らは戦った。
毒ガスと砲弾に脅えつつ
兵士たちは 前進と後退を
繰り返す日々。
虚ろな瞳と
乾いた唇で
木一本、草一つ生えていない
泥沼の戦地を
僕らは
這いずり回った。
故郷は
僕らの町は
そして 僕の家は
僕らが戦地に送られる前と
ほんの少しも
変わっていないはずだった。
僕の部屋には
僕が兵士になる前の
全てがあった−−−−−−。
雑多な本やスケッチ
写真に手紙
詩や音楽や夢
希望
そして 家族への愛や
密かな恋……。
あの部屋が僕の出発点だった。
すべては あの部屋で語られ
すべては あの部屋で創作された。
けれど
ハイスクールを 卒業し
僕らが 戦地に送られた
その日から、
僕には よく解る
仲間たちの気持ちが よく解るんだ。
お互いに−−−−−−
僕らにとって
戦場が僕らの 青春の舞台となった。
戦友がお互いの 無二の親友となった。
ひょっ子共の僕らに
ここで 生き残る術を教えてくれた
粉屋のジャックが
僕らの父親代わりになった
あの日から−−−−−−
僕は決して
振り返りはしない
僕は ここで 呼吸し
ここで 創作する
語ってくれるものは すべて
謳ってくれるものは すべて
(僕は僕の前の事象を拒まなかった)
僕は ここで 語り
ここで 泣き
ここで 笑い
ここで 考え
ここで 食べ
そして
ここで 戦う。
だけど−−−−−−
あれほど 悪運が強いと信じていた
僕らの仲間も
戦争が長引くにつれ
戦況が激化するにつれ
一人ずつ 減っていった。
あの戦地の中で
僕らは 多くを語らなかった。
語る前に事実が在った
僕らを目覚めさせ
黙らせてしまうに 有り余る
事実が在った。
その中で−−−−−−
戦友だけが すべてだった。
失うものも 持つものも
何も無かったが
ただ−−−−−−
戦友だけが
其処にいた
唯一の
そして 失うことのできない
宝だった。
鉛のように疲れた心と体−−−−−−。
昔、子どもの頃 味わった
母のあの柔かい胸に抱かれたい気持ちに
何度 かられたことだろう。
−−−−−−が、
戦友たちが 其処にいる限り
僕は きっと 何度でも
戦地に戻っていった。
そうだ
天国の門に至る 狭き道に
怒涛の如く 送り出された
あの深い哀の色をした
唯一 同じ思いを分かち合える
戦友たちといっしょに−−−−−−。
(1981年 学生時代)