ice cream castles in the sky

フォントのこと –バイバイ、モリサワ–

仕事の道具としてMacが加わった頃からフォントをどうするかは課題だった。ひとつはもちろん使いたいフォントデザインがあるかどうかということ。もうひとつは予算的なことだった。
使いたいフォントデザインというのは写植に馴染んだものとしては当然写研のフォントということになる。しかし、デジタルの日本語環境で市場を牛耳っていたのはモリサワだった。
Mac以前、モリサワのフォントと言えばデザインの中にちょっと味付けを加えたい時に、いつもとは違う(書体数をたくさん持っている)写植屋さんに単発で注文する、要は付け合わせ的なものだった。もちろん地域や環境によって違うのかもしれないが。
モリサワを本文等のメイン書体として使いたくはないんだけれどな、という思いは結局消えること無く十数年経った今でも続いている。これはモリサワのデザインの本質的な善し悪し云々ということ以前に、体に染み付いてしまった感覚なのだから仕方がない。
そういう感情的なもつれからある程度仕方ない部分でモリサワを使い、その他は別の各社の気に入ったフォントを探しては使っていたわけだ。
モリサワ以外で一番使ったのはフォントワークス。また、写研と泣く泣く別れてから始めて出会った「これだっ!」というフォントがヒラギノだった。ただ印刷屋や出力サービス会社が対応していなかったことには苦労したけれど。
そうやって長いものに巻かれるようにモリサワフォントで仕事をし、ここ数年は「パスポート」という年払いの定額で全ての書体を使えるサービスを利用していた。
しかし印刷からWEBへ仕事の軸足が移りつつあること、フォントの埋め込み機能の出現で状況が変わった。フォントワークスにはモリサワの半額程度で同社全書体を使えるLet’sというサービスがある(もともとこちらの方が早く始まっている)。また、Mac OS Xには素晴らしいヒラギノフォントが付属していて商用も可能だ。
もうモリサワに縛られなくていいかも、とふと思ったわけ。バイバイ、モリサワ。
Let’sはパスポート以前に数年使っていたことがある。こつこつ溜めたモリサワ単品フォント+Let’sというのが当時の仕事環境だった。それは主に掛かる費用を考えてのものだったけれども、今後は使いたいからという純粋な気持ちでその環境に戻せるのが嬉しい。
この後はヒラギノフォントを買い足して行き、それを本文組に使えれば完全にモリサワはいらなくなる。たまに来る印刷の仕事で他所と連携しなければならない時に必要になるくらいになるんじゃないかな。
いずれにしても、写研に匹敵するデザインのフォントはまだデジタル界には無いことが残念。ヒラギノはかなり良いし、歴史のあるイワタのフォントなどもデジタル化されているけれども、物足りないんだな。それはデザインだけのことではなく。
今、WEB上で散見する、有力デザイナーたちによる日本語WEB文字組をどうにかしようという取り組みが大きなうねりになって実を結ぶといいと思う。確かに(特にWindows環境をたまに見ると)ひどいなって思うし。
また、Googleによるフォントのクラウドサービスなんかも始まるらしいけれども、これの日本語版をたとえばヒラギノとAppleの協力で始められれば革命的だと思うのだけれどどうだろう。

3 Comments

  1. shin_jin_kun 2010年6月6日

    頼む側も作る側も「仕方なく」って光景を最近本当によく見ます、モリサワ。
    とりあえずモリサワで、って感じなんですかね。
    OpenTypeとPDFが滲透してきて、いわゆる「次世代フォント」への移行が
    始まったあたりから足下がおぼつかないというか、方向性を誤っているというか。
    使える字形が限られていたり、ユーザーに不便を強いるライセンスだったり。
    これまでシェアを独占してきた者の驕りのようなものを感じずにはいれません。
    とここまで書いて、どっかで似たような話を聞いたなあと思いました。
    …Microsoftさん、あなたです(笑)。
    ヒラギノを生んだ字游工房は写研の遺伝子を受け継いでいるんでしたっけ。
    かなも漢字も並べただけで「それっぽい」んですよね、字面が。
    OS Xにバンドルされてるウェイトだけではちょっとバリエーションが心許ないですが、
    本文にも見出しにも使えるクオリティを維持している数少ないフォントファミリーだと思います。
    最近のAdobe製品にバンドルされてる小塚ファミリーも悪くはないんですが、
    ウェイトや字形によって品質にちょっとムラがあるというか、
    単純にエクストラライトやエクストラボールド-ヘヴィといった極端なウェイトは
    そこそこ美しいけれど(小塚ゴシックのELが近年の細身ゴシックの流行を作りだしたんじゃないかとさえ思います)、
    中庸なものはちょっと厳しいなーって。
    だから見出しはともかく本文には使いにくいという。
    このへんはモリサワの書体によく似てると思いませんか。
    webにおけるタイポグラフィはまだまだ厳しい状況ですよね。
    「どうせwebだし」って観る側も作る側も諦めちゃってるのが悲しいです。
    まずはMicrosoftが高品質なスクリーンテキストレンダリングエンジンを開発すること(CoolTypeなんて擬似的なものじゃなくて)、
    そしてWindowsにまともなフォントを搭載すること(メイリオなんてひどい書体じゃなくて)。
    たかが極東の島国の文化と軽視せず、一時期のAppleのように愛を持って仕事していただきたい。

  2. clois 2010年8月22日

    コメントもらっておきながら2月放置してしまったよん。その返信のつもりで書き始めたら言いたいことが増えて新しい記事にしてしまったっす。
    良かったらそちらも見ていただくとして、ここでは具体的な各社フォントについて少し。
    ・ヒラギノについて
    ヒラギノ良いです。でも残念ながら写研の中明(MM-OKL)には及ばない。それは特に組んでみると明白でヒラギノは一字一字は美しいのだけれども、それぞれが微妙に主張しすぎるような気がします。具体的にいうとモダーンな書体デザインを目指し過ぎたために若干文字の懐を広くし過ぎたのだと思う。ほんの微妙に。だからOKLで組んだときのような「座り」の落ち着きがない。
    ただしこの辺は元記事に書いたように慣れということかもしれない。
    ヒラギノで良いのは明朝系よりも角ゴ。それで一等最初に角ゴW1を買ったの。
    ・小塚さんについて
    なんとなく小塚さんって呼んでしまうこのフォント。別に知り合いでもなんでもないのだけれど(笑)。これはちょっと不思議なフォントで、それぞれの文字デザインをじっくり見ていくとかなり癖があるような気もするのだけれども、組んでみると割合読みやすい。他にない味もある。一番身近でサンプルを見られるのはもちろんAdobeのカタログなのだけれど(笑)。例えば商品のスペックなどを表示する時にこのフォント、使えるかなと思っているのだけれども結局使い切れない。そこに目に見えない壁があるような気がするの。そんなフォント。
    ・筑紫明朝、ゴシック
    フォントワークスレッツに戻ったのはこのファミリーが充実してきたことが大きいです。フォントワークスと言えばロダン、マティスの両書体が有名でそれぞれ意欲的な書体なのだけれども何となくそこで進化が停まってしまっていたという印象があった。そこに日本語に正面から取り組んだという印象の筑紫フォントファミリーが登場して最初にヒラギノを見た時以来の期待感を持ちました。クラシカルな要素を含みつつ良くまとめてきているという印象です。小塚さんと違うのはちょっと迷うとつい使ってしまうこと。この差は何なのだろうって思います。
    レッツといえば、イワタレッツというのも始まっていて、イワタ明朝などこのサービスにはかなり引かれるところがある。でもどうしてモリサワ・ヒラギノ連合みたいに、フォントワークスとイワタの全書体を使えるサービスにしなかったのかなあ。いくらか年間契約料が増えても(パスポートと同程度になってしまったら別だけれど)そういうことなら継続するのに。これからの展開に期待。
    ただ、ヒラギノが市民権を得た(と思っている)今、もっと堂々とヒラギノが使える喜びを感じています。欲を言えば「ヒラギノ新明朝」みたいな書体、出ないかな。それとも、やっぱ使い続ければ慣れて来るのかな。

  3. […] ※この頁、ここにつづく。 […]

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