丘に向かってひとは並ぶ 富岡多恵子
たとえば、ジブンというものの有る無し、意味と無意味、ムイミのイミ、そんなことを考えはじめてちいさく深い路地に迷い込んでしまう、そういう時期ってある。
ある程度で懸命にも引き返して来る人もいるかもしれないが、愚かにもとことん行ってみようと思っては見た(行けたのかどうかはわからない)。
そう言う時に出会って読んだ。それから例によって、その後しばらくこの人の本ばかり読むようになる。今手許にあるのがその時の本だと思う。古本屋で100円で買っている、文庫本。
自分にとってのその頃リピートしていたコトバ、「丘」「向かう」「並ぶ」と表題にそろえばいやでもこの本を見つけたイミを考えてしまった。それは正しく「その時読みたかった」本だった。
そんなに厚くない頁数に「丘に向かってひとは並ぶ」「希望という標的」「イバラの燃える音」の3作品。
作者は詩人でもあるけれど、これが詩なのか小説なのかわからない。はじめて小説的な書き方で書いたものだということは解説にあった。何かの示唆やテツガク的なことが書いてあるわけではなく、あるヒトの生きた痕がぽつりぽつりと突っぱねるように書かれている。