ice cream castles in the sky

FONTに関わる悩ましい日々について

真打ち登場と行った所だろうか。モリサワが“モリサワパスポート”なるサービスを開始するとのこと。要はフォントワークスの“LETS”の二番煎じ。料金はさすがに強気でLETSの倍くらいする。
OS Xへの移行を促すには確かに決め手になるのだろうなあとは思う。でもこれでOS Xでもモリサワが標準なんてことになってしまうのだったら嫌だなあ。

僕がMacを使い始めた頃(96)の世間一般的なフォント環境はロダン、マティスのフォントワークスとモリサワが主立ったものだったと思う。手作業の頃、僕が勉強させていただいた会社は企画から印刷管理まで一貫して行うというスタンスの会社だったので、版下作業も当然こなしていた。写植は写研が標準でそれに親しみ勉強し、使っていた。それがMacを使いはじめて、しばらくすると判ったのはモリサワを使わなければならないこともあるらしいということ、つまりいつの間にかモリサワがDTPでの主流となるという状況が生まれてしまっていたのだ。何が悲しくてモリサワなんて使わなければならないんだろう。写植時代もモリサワ書体を使う事はあったけれども、それは紙面に味付けを施すために限定的に使うだけだった。本文書体には使えないなと思っていた。もちろん好き嫌いはあるんだろうけれどね。仕方が無いから標準数書体と新ゴ(要はゴナの代わり)は揃えてみたけれども、これが使えない事にアウトラインがとれない書体ときている(それで、後ろめたい気持ちもあったのだが「裏フォント」にも手を出すことに)。しかも書体デザインはイマイチ(悪いというのではないよ。すごく良く出来ていると思うことだってあるにはある。でも、どうにも好みじゃないし自分にとって美しくない)。他のデザイナーに聞いてみても、しょうがないから使っているという答えが多かったなあ。どういう訳なんだか、クライアントの方からモリサワでっていうような指示が来る事もあったんだよね。営業力?
なぜ写研はデジタル化してくれないんだろうと何度枕を涙で濡らした事か(若干誇張)。幸い僕は割合自由な環境で仕事ができ、他所とのファイルの共有などはあまり考えなくてよかったので、フォントワークスやリョービをメインに仕事をする事も可能だった。でも何か物足りないと感じていた所に見つけたのが大日本スクリーンの「ヒラギノ」。写研の書体に匹敵する美しいフォントを使う事ができると思うと本当に感動ものだった。でも残念な事に出力センターや印刷所が対応していない事が多く…、そうしてフォントに関しては実に悩ましい日々を送っていたのだ。
実際コンピュータによるオペレーティングで印刷物が出来上がることが増えてくるにつれ、写真の発色などのことも含めてそのクオリティががくんと落ちたことは、この仕事を長くやっている人なら誰でも感じたことだろう。僕がMacに対して「おくて」だったのもそういう理由があったし、逆に使い始めてMacというコンピュータとか機械とかを超えた存在そのものに惚れ込んでいくほどに、物足りなさも鮮明になっていった。各方面の努力によって、発色やコントラスト、線のシャープさなどは随分改善されて来ている。それに比べて標準と言われるフォントのデザインはほとんど変わっていない。データフォーマットが変わるたびにユーザは買い替えさせられているのにも関わらずである。
さて、OS X登場。なんとヒラギノ標準書体(OpenType)が内包されてリリースされるとのニュース。これは最初にヒラギノに出会った時と同じくらい嬉しかったなあ。続いてフォントワークスがLETSプログラム開始。これも画期的な事だと思い、すぐに契約した。僕にとってはヒラギノとLETS、これで十分。サヨナラ、モリサワと思っていたら、どっこいやって来ましたな。
最近ではファイルのやり取りをする事も多くなったので仕方なく先週OS Xで使えるモリサワの基本書体を注文したばかりだったのだけれど、まあいいや。どちらにしてもツナギになればいいと思って買ったのだから。購入した数書体よりもパスポートの方が高いし。
今後の事については実は楽観していて、というのはOpenTypeの出力環境が定着してくれば、それは埋め込みができるフォントなのだから、今までのような書体の縛りはなくなるはずなんだ(よね?)。デザイナーが自分の信じる美しい好きな書体を自由に使える時代は目前なのかもしれない。

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